ASIAN KUNG-FU GENERATION「宿縁」の全曲解説レビュー

2023年2月8日リリースの、ASIAN KUNG-FU GENERATION通算30枚目となるシングル「宿縁」。

恒例となったAmazonでの予約購入で、1日早い2月7日に届きました。

カップリングとなる「ウェザーリポート」「日坂ダウンヒル」も聴きこみ、このシングルパッケージがいかにチャレンジに溢れる一枚であるか解説させていただければと思います。

「宿縁」概要

@ASIAN KUNG-FU GENERATION公式

ASIAN KUNG-FU GENERATIONの記念すべき30枚目となる作品。前作「出町柳パラレルユニバース」以来5カ月ぶりとなるシングルは、TVアニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』のオープニングテーマに起用されました。

『NARUTO』関連の楽曲使用は、「遥か彼方」「それでは、また明日」「ブラッドサーキュレーター」に続いて4度目。テレビアニメの起用は、『どろろ』の「Dororo」以来4年ぶりです。

宿縁という言葉には「前世からの因縁」という意味があります。『BORUTO』の中でボルトとカワキが反目し戦う未来を、現代社会と照らし合わせて描いた楽曲に注目。更に、カップリングはアジカンの歴史からはないアレンジが利いていて、チャレンジ性に富んだ楽曲です。

 

Apple Music

 

Music Video

2023年3月9日に表題曲宿縁のMVがリリースされました。

過去作からの小道具も登場するループもの、巡るめく状況が終わらない輪廻を表現しています。

 

収録曲レビュー

M1:宿縁

“どこまで行っても交わってしまう関係性”

「NARUTO」から「BORUTO」へ移行し、作画も岸本氏から池本氏へとバトンタッチしているアニメシリーズ。そんな中でも変わらないものがあり、切っても切り離せないものがあります。アジカンメンバーにとって「NARUTO」シリーズはバンド人生を変えた作品といっても過言ではないため、作品に対する敬意をもって制作にあたった楽曲です。

本楽曲は、ボルトが抱えた因縁を絡めながら、現代社会を生きる人々へのメッセージも込められています。

昔に比べて格差が広がる現代社会で、親から子へ引き継がれる負の遺産といものも増えています。そういうものを「うんざり」しながら背負って生きるのも道だし、下して歩き出すのも道。そこで得る”閉塞感”が地を這うようなヘヴィなサウンドに現れていると感じました。

アジカンの得意とする耳に残るギターリフは健在ですが、想像以上に硬派で重いサウンドが重なっているので深みがあるんですよね。

現代の邦楽ロックは、楽曲を複雑化して特徴を付けようとするのですがアジカンはその逆。余分を削ぎ落し抑揚を抑えていますが、一本調にならない重厚なサウンドを魅せてくれます。そこが、格好良いんです。

ひび割れた大地の厳しさを分けていく命よ 渇きを癒す水源地をひたすら求めて いざ

サビの歌詞は簡潔ですが、力強く使命感を持って生きる意志を感じます。歌詞の意味を紐解けば複雑だけど、短くスマートにまとまっているのは日本語の良いところです。

インタビューで後藤は本楽曲を「サスティナブルなエモ」と語っています。

確かにガツンとくるメロディラインではないけど、横揺れを誘うじわじわと盛り上がってくるタイプの楽曲なのは頷ける。いやしかし、サスティナブルなエモって(笑)

アジカンも50代目前ですから、長時間ライブを見越して楽曲を作っているのは確かなのかもしれない。理にかなっているけれど、それでも今回の楽曲は硬派な生きざまが詰まってる。瞬発的にもロックだよこの曲は!

令和に入って、邦楽バンドって更に複雑化しているような感じがするんです。自分は、今のそういう邦楽バンドが合わなくて、アジカンのようにシンプルな音を届けてくれる存在に音の格好良さを見出しています。

ささやかな夢にも きっと僕等が生きる理由が潜んでいて 踏みつけてしまえば 世を呪っている彼らの願ったり叶ったり

きっと、僕らが描く道は間違いじゃない。

自分が自分の夢を肯定できる時代が、これからも間違いなくあるはずなんだと。

在りし日の針が闇を指していても、その先に光があるはずなんだと。

何度も聴けば聴くほど、この楽曲の持つエネルギーを噛みしめることができる。シンプルだけど、実はいい意味でコンプリケイション。

アジカンがどういうバンドか、知り合いに説明することがあれば「宿縁」はもってこいの楽曲になるはずです。それほどに面白い楽曲だと思います。

 

 

 

M2:ウェザーリポート

” どこまで交わることのない関係性”

カップリング楽曲の定番となっている、Gt.喜多ヴォーカルの楽曲。

「宿縁」では、どこまでも交わってしまう関係性を描いている反面、「ウェザーリポート」ではどこまでも交わることのない関係性を描いているとのことです。

二人の関係性を”雨”と”晴れ”という天気の二面性で描いていることもあり、メロディとは裏腹に歌詞はシリアスな印象を受けます。

カラカラになった昨日の雨は気休めみたい ふたりは乾いた 互いの熱が消え去るくらい 

という2Aの歌詞が秀逸で、ふたりの関係性が冷めていく過程がこの1文に詰め込まれています。男女の関係性って歌詞に詰めると冗長になりがちで難しいテーマになるのですが、それをここまでサクッと言葉にできるのは素晴らしいの一言です。

インタビューで後藤は、「喜多さんが歌うなら、僕が歌わないような甘い恋愛の歌詞でもいいのかな」と語っているので、自分で歌わない楽曲であればもっと開放的に、自由にテーマを決めることができるようです。

恋愛がテーマの楽曲というのも、確かに珍しいかもしれない。

喜多の存在はある種のフィルターなのかもしれないし、後藤の魅せる世界観が広がっているのを確かに感じます。

M3:日坂ダウンヒル

アルバム『サーフブンガクカマクラ』の続編として、鎌倉高校前駅の旧称「日坂」を舞台に構成された楽曲。

「日坂ダウンヒル」は、まさに今までアジカンが見せることの無かったスタイルのパワー・ポップが投影されている楽曲だと感じました。

そのなかで、アジカンらしい脱力感と伸びのあるトリオが完璧にマッチしています。ありそうでなかった、アジカンの新たな一面が見れる楽曲でもあるでしょうか。

日坂という場所は、光が海や山に反射して映える景色が多いことでも有名です。

ゆるくカーブした坂道が多く平日は長閑で奥が見えない不思議な雰囲気を持つ地域ですが、休日になると観光客でごった返す場所でもあります。駅自体の景観も良いですし、ドラマや映画の撮影地になっている場所も多いことが理由でしょうか。

そこで歌う『日坂ダウンヒル』は、愛しい人を思い返すような淡い想いが光る名曲です。

坂道を上まで登り切って肩で息をしている 来た道をまざまざ振り返って その先の青さに驚いたまま 駅まで下って 君のこと思い出してる

サビの歌詞も非常に秀逸。この一文だけでも情景と感情が浮かんできます。

@サーフブンガクカマクラ

『サーフブンガクカマクラ』は筆者が一番好きなアルバムです。

その理由として、筆者がパワー・コードとオクターブ・ユニゾンが大好きな音楽バカというのもあるのですが、横揺れを誘うメロディと特徴的なアクセントコードが秀逸な楽曲が多いという点にあります。本当に良いアルバムで、何度聞いたか分からないアルバムの一つだなぁと。

1月まで開催されていた中村佑介展でも、ジャケット画像の前で数分は立ち尽くしてしまうほどでした。

インタビューで後藤は、「まだ5駅も残っているなという気持ちがあったので、アプローチを変えればあとアルバム3枚分くらいはできそうなんですよ」と語っています。

もっと頂戴! そういうのもっと頂戴!

多くのファンが、そう叫んだ瞬間なのは言うまでもありません。

曲調はウィーザーの「El Scorcho」をイメージしているとインタビューで語っていることもあり、1990年代のミュージックシーンを現代でアレンジする粋な楽曲です。日本のロックバンドが、世界のロックを吸収して日本語で歌う。非常にエモいナンバーです。

 

 

 

CD情報

@ASIAN KUNG-FU GENERATION

タイトル:宿縁

リリース:2023年2月8日

価格:初回生産限定版 ¥2,420、通常版 ¥1,100

番号:初回生産限定版KSCL-3417 ~ KSCL-3418、通常版KSCL-3419

収録曲:M1 宿縁、M2 ウェザーリポート、M3 日坂ダウンヒル

限定版付録:2022 Tour「プラネットフォークス」at 日比谷野外音楽堂2022.7.23公演BD

 

おわりに

ということで、今回はアジカンの新曲「宿縁」についてレビューさせていただきました。

「宿縁」のシンプルな音作りは、ストレートにロックを鳴らすことが少なくなった現代にこそ輝く楽曲です。30枚目のシングルでも未だに色褪せないアジカン節、本当に素敵なことだと思います。

インタビューで語っているのですが、50代を見越して近年は身体にも心にもサスティナブルなロックを制作しているようです。「出町柳パラレルユニバース」も、横揺れを誘うようなアジカンらしいテイストが全面に滲み出ている名曲でしたよね。

アジカンは邦楽ロックとして良い塩梅(あんばい)の心地よさを持ったバンドです。

今のスタイルも本当に格好良いので、これからも楽しみで仕方ありません。

 

大丈夫?長くなってないこの記事?

アジカンやバクホンに関しては、永遠と語ってしまう悪い癖が出そう。

いつも、冗長的にならないように文章をコンパクトにまとめるように考えているのですが、やはり難しいことですよそれは!

 

ということで、最後まで読んでくださりありがとうございます。

 

リンク

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BORUTO公式

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