20歳で秋田ひろむの音楽と出会い、10年近くの付き合いとなったロックバンド”amazarashi”。
学生と社会人の間くらいの私にとって、心打つ歌詞で一気に引き込まれました。代表曲となった「季節は次々死んでいく」「命にふさわしい」「空に歌えば」等アニメやゲームのタイアップも重なったことで、世間的な知名度も非常に高いバンドとなりました。
絶唱型と称される Vo.”秋田ひろむ” の音楽は、詩を唄うかのような字余りをメロディに組み込んだ独特なリズム感と悲壮感があります。『僕らは悲しみや苦しみに雨曝しだが、それでもいいんだということを歌いたい』というバンド名の由来とマッチした情熱を持つ唯一無二のバンドです。
今回は、彼らが4/13に発売した6thフルアルバム「七号線ロストボーイズ」について、Vo.秋田ひろむのインタビューや曲の解説を踏まえてレビューさせていただきます。

6thフルアルバム「七号線ロストボーイズ」
アルバム作成の経緯
コロナ過の葛藤や怒りを込めていた前作「ボイコット」「令和二年、雨天決行」から2年。
「七号線ロストボーイズ」について、秋田ひろむは “人生のルーツや自らを客観的に見たイメージを見つめ直した作品” と語っています。アルバムタイトルの七号線は、生まれ故郷青森を貫くように走る国道七号線から、そして人生のルーツを見つめ直した自分自身をロストボーイズという呼称に重ねているようです。
アルバムを通して、『自分に対して』『自分が相手に対して』どうすることが出来たか、どうするのが正解だったのか、結局こうしてしまった….そしてこれから何をすることができるのか。様々な願いが込められている曲が多いと感じました。
テレビアニメ「86」オープニングの”境界線“、魚豊著の漫画「チ。」とのコラボ楽曲”1.0“、出会いと別れのサイクルを歌うリード楽曲”空白の車窓から“といった、話題性のある楽曲を含む11曲。
2010年に発表されたミニアルバム「0. 0.6」に収録されていた楽曲”少年少女“の再レコーディングが直近で行われるなど、秋田ひろむ自身が10年前の自分を再度見直した後のフルアルバム。そういう視点で聴いてみるのも面白いですね。
楽曲解説
- 感情道路七号線
- 火種
- 境界線
- ロストボーイズ
- 間抜けなニムロド
- かつて焼け落ちた町
- アダプテッド
- 戸山団地のレインボー
- アオモリオルタナティブ
- 1.0
- 空白の車窓から
1 . 感情道路七号線
この曲はアルバムのスタートでもあり、秋田ひろむがアルバムの最後に作った曲でもあります。イントロとしてアルバムがどのような雰囲気なのかがこの一曲に詰まっています。
アルバムのコンセプトは『過去をたどって振り返る現在』。故郷の青森にいた”無名”の自分を振り返って、その頃の「怠惰」「葛藤」「後悔」「それでも大切な思い出」を振り返ったアルバムのコンセプト曲だと言えます。得意とする短いポエムソングです。
不許可の心構えた者の末路に
病める血気に頬が赤く染まるのを見た
大切なものは変わらず今日も手の中
毎夜確かめる変わらず今日も手の中
2 . 火種
アルバムの始まりに必要なアッパーソングとして作成された火種。
この「火種」とは、過去の経験(火種)が元で現在がこうなっているという意味が込められているとのことです。戒めのような気持ちが込められているのでしょうか。
歌詞の中でも火種のことを呪いと歌っているため、今も振り払えない過去が呪いのように付きまとっている様子が伺えます。しかし、その火種によって今の自分の場所がある…とも歌っています。
曲調は豪快なギターと、不穏なノイズが合わさったロックナンバーです。静かなBメロCメロ頭から、サビで解放される揺らぎのあるメロディーが格好良い一曲。ライブ等では「空洞空洞」のようなポジションで盛り上がること間違いなし。
現世に惑う 不徳に踊る 先も見えぬ苦境にこそ
壊すんじゃなく 照らし出すんだ僕が
ねえ これ努々 忘るるなかれ 胸躍る常闇にこそ
きっかけ、引き金 いっそ眩しく世界を焼く
火種はあの日の呪いだ
3 . 境界線
TVアニメ「86-エイティシックス-」の2クールOP曲となる「境界線」
その時、その場所で決断するすべての事が、見方によっては善にもなるし悪にもなるという『善と悪の境界線』についてを歌っています。戦争に善も悪も無いように、そういう虚しさや恐怖を疾走感のあるロックナンバーで歌う…amazarashiの得意な部分で出ている一曲です。
映像作家のYKBXさんの手掛けたPVは、amazarashiの不穏な不安定感が上手く表現されていますね。ただ、PVに効果音とか演出が入ってるのが自分は嫌いなので、そこは好き嫌いが分かれるところかなと。楽曲はまさにamazarashiのタイアップというような疾走感あるリード曲。「空に歌えば」の時代を彷彿とさせます。
薄情な決断も 選び取った無謀も 屈した敗北も 妥協した選択も
こうならざるを得なかった 昨日を恨むから
次こそ選ぶんだ 僕が許せる僕を 今日を
4 . ロストボーイズ
アルバムタイトルにもなる「ロストボーイズ」―
秋田ひろむが少年時代を思い出しながら作った曲。どこか寂しさを感じる伸びのあるナンバー。少年時代の歌というのは逆に大人に刺さる部分がありますよね。この曲も凄く大人向けの曲だなと感じました。
聴く人の年齢や境遇によって色んな味付けがされる楽曲でもあり、amazarashiのキャリアが生み出した曲だと思います。サビの演奏陣の壮大さ、ハリのある秋田ひろむの声量。すべてが噛み合った今にしか生まれなかったであろう名曲。
amazarashiの曲は尖った曲が多いのですが、”たられば”のようにどの年齢層にも伝わりやすい曲だと思います。アルバムを代表する一曲でしょう。
少年は闇の中 十年経っても闇の中
襲われる「あの頃良かったよな」 振り解く「まだまし今の方が」
自意識過剰なくせに はなはだ無鉄砲で気難しい
けどそいつに諭される時々 そんな夜、未だに幾つもある
5 . 間抜けなニムロド
ニムロドとは、旧約聖書の登場人物で「世の権力者となった最初の人」「狩人」です。ノアの大洪水の時代と同時期の話のようです。そして、ニムロドという名前には、ヘブライ語で “我らは反逆しよう” という意味があるそうです。
歌詞からは、権力者に対する皮肉が歌われているように思います。大きな権力を持っている人や勢力に対して、『そんなチープでいいのか?』という問いかけをしています。秋田ひろむが今の情勢に遠回しに訴えている曲なのだと筆者は思いました。どんな意味が込められているのか追って調べてみると、知らない事象や歴史についてとても勉強になり面白くもあります。
秋田ひろむの声と演奏陣が重なって、浮遊感のあるメロディも印象的です。サビのピアノがキラキラしているのは歌詞とのギャップがあって素敵です。むっふ~。
君がどんどん離れてく 寂しさすら目を見開く
汚れた爪で引っ搔いたのは 確か、世界の不確かさ
変わらぬものを変えるのが そう信じる者だけなら
愚かさも時には強さになる もしかしたらだけど
6 . かつて焼け落ちた町
デビュー当時に青森市へと引っ越した秋田ひろむが、自分の住む場所を調べていたときに知った『青森空襲』のことを歌った曲。デビュー当時に振り返ったアルバムなので、そのときに知りえた歴史や衝撃をそのまま歌に乗せています。
今思えば、地元の歴史について自分はほとんど知らないなぁ…その土地の歴史を知ることも自分の生き方を改める一つのポイントになるのかもしれないなぁ。しみじみ!
君が居るからここが家で 家があるから僕らの町で
生活して 歳をとって 朝日の中仕事に向かって
突然の悲劇に泣いたって 人と人とで慰めあって
生きてますか? 生きてますか? ここはかつて焼け落ちた町
7 . アダプテッド
秋田ひろむはインタビューでこの曲を「僕が聞いていた頃のJ-ROCK的かなと思います」と発言していますが….そ、そうかぁ???
かなり歌詞で遊んでいる曲という印象で、タイトルのアダプテッド(適合する~)から連想できる歌詞でも無いので、とても難解な曲です。アップテンポだけどハチャメチャ。その支離滅裂な中で”アダプテッド”と歌う面白さがある、そういう部分が昔のJ-ROCKっぽいという意味かもしれない。どうでしょうか?
夕闇彼方が燃えた 僕は死んだ
あの子が世界を変えた一夜
きらめく星空は 僕らを貫通してった弾痕 天の川は創傷
世界に二人だけ 観念だけになって 口角を上げた夏 絶唱 絶唱
8 . 戸山団地のレインボー
デビュー当時のamazarashiを歌った曲だと秋田ひろむがインタビューで語っている本曲。タイトルにもなっている戸山団地は青森の閑静な住宅街で、本格的にバンド活動を始動させた秋田ひろむの心情を描いた歌詞がリアルでグッときます。
ピアノとドラムで静かに進行していくAメロとBメロは、昔から変わらないamazarashiの良さが詰まっています。そして大サビにかけて盛り上がっていく曲調はとても上手い構成です。
44号線の農道と新幹線の高架下
日陰者の根城 すれ違うのは軽トラと季節だけ
足取りを清書 憤りも推敲を重ねて
泥のついた名著 労働の空き間に夢が暮らしてる…
★戸山団地についてどんな場所なのか、調べた他者のブログも面白いです。
http://aoimorilabo.com/toyamadanchi
9 . アオモリオルタナティブ
この曲が出来たことでアルバムの方向性が固まったそうです。
『自分の成り立ちを知ってこそ理想の成り行き描けるんだ』とサビで歌うように、故郷や駆け出しの頃の自分を振り返ることの大切さ、そしてそれも笑って話せる程度の重荷でいい。マイナスの要素は一切なくてすべてがプラスで描かれているのが本当に良い。
生きることに日々一生懸命な人にこそ聞いてほしい曲です。次の「1.0」も合わせて一つの世界となっているため、アルバムの構成が本当に素晴らしいです。
ミスった時こそ涼しい顔 伺うんじゃなく睨みつけろ
ここぞという時にペダルを踏め 鬱屈も増幅すればアートたり得る
幾度挫けて身の丈を知って でも「ひょっとしたら」が「もう一度」と急かす
人生変える何かにも始まりはある それが今日じゃダメな理由は一つもない…
10 . 1.0
魚豊氏の漫画「チ。」とのコラボ楽曲となる「1.0」。
本楽曲は上記漫画のための描きおろしではなく、アルバム制作時に自然とできた曲だと秋田ひろむはインタビューで語っています。しかし、今後発売される「チ。」とのタイアップ楽曲のプロジェクトに対するスタートラインとなるため、聴く人それぞれが作品に想いを重ねるようなpvにもなっています。 (今後発売予定のコラボ楽曲にも期待)
ファンは、amazarashiの過去楽曲「0.」「0.6」に対するアンサーソングかと思ったことでしょうが、そういうイメージは無かったと語っています。上記楽曲のことは意識せずに聞いてほしいとも語っているので、0聴く人それぞれの「1」を思い浮かべながら聴いてみると良いのでしょう。本当に良い曲。
それでも逃げ込める居場所を あなたを呼び止める声を
もうここで死んだっていいって 心底思える夜とか
報われた日の朝とか あなたにとっての1が
見つかりますように 見つかりますように
「どうにかなるさ」って言える あなたにとっての1が
見つかりますように 見つかりますように…
11 . 空白の車窓から
アルバムリード曲として配信された「空白の車窓から」
本格的にバンド活動を行うために青森から東京までを繋ぐ電車に乗り込んだとき、車窓から見える景色と同調して早まる鼓動や、抱いた不安と葛藤をそのまま歌詞に込めています。
ツアー中の新幹線の中でふと思ったことを歌詞に起こした楽曲と語っており『当たり前になってしまった今を、一瞬一瞬噛みしめて生きよう』という思いが込められているとのことです。確かに想いがストレートに伝わる歌詞ですね。
『自分の音楽に飽きたら終わり。どんどん音楽的に新しい方向を模索している』というインタビュー内容から分かる通り、結成当初から秋田ひろむが大切にしている雰囲気でありながら不思議と飽きない構成となっています。デビューから10年以上経った今だからこそ出せる深みと、当時の青臭さというか新芽のような若々しさが入り混じった名曲です。
終わることなんか知らなかった もう取り戻せないあの無邪気さ
ただ知らない君より 知った君が 持ち得る光源 新しい夜へ
この先は空白だ もう恐れない 自由とはなんて寂しいんだろう
ただ車窓の景色の速度だけ早くなる 僕と歌だけ運んで…
5月から『ロストボーイズ』ツアーとして2022年のツアーが始まるamazarashi。
ホールツアーとして人前で披露できる環境を、心から喜んでいたメンバー一行ですが、もちろんファンとしても心から嬉しいことです。アニメや漫画、地域とのコラボレーションが増えてきた彼らを目にする機会はこれからも増えていくことでしょう。それを確信したアルバムでした。
青森の故郷のことや、過去の自分自身を歌にした本アルバム。私も多くのバンドを観て聴いてきましたが、故郷をテーマにアルバムを作成するバンドは少なく、何よりアルバムの一貫性を取るのが難しい試みです。それでも、11曲も作成できたのは秋田ひろむの故郷に対する思いの強さと、メンバーの想いが結託していたためでしょう。
直近のインタビューにて「ツアー後はちょっと休みを入れたい」と語っていた秋田ひろむ。
ツアーが無事に終わったら、地元に戻って休んでくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
ということで、「七号線ロストボーイズ」のアルバムレビューは以上になります。
長くなってしまいましたが、最後まで読んで下さりありがとうございます。kaminoteでした。
AppleMusic
リンク
■amazarashi公式サイト
■「七号線ロストボーイズ」公式サイト
https://www.amazarashi.com/nanagousenlostboys/
■ 内部リンク